自動車メーカーの場合は世界のモーターショーで製品化前のコンセプトカーが発表されることが多い。(日産テラノート/2006年 ジュネーブモーターショー)
携帯電話会社も次世代端末のプロトタイプを発表してマーケティングの一環に取り込んでいる。(INFOBAR 2 /au)
建築の場合は、戦後の高度成長期に大量の住宅を供給する必要から工業化住宅や公団のLDK規格が発達した。設計手法をマニュアル化することでスキルの低い設計者でも一定以上のプランをまとめられ、工法的にも熟練大工を必要としない簡略化へと向かった。
現在でもそうしたマーケットは以前継続しているが、ハウスメーカーが建築家をブランド化する動きを経て、設計者や建築プロデューサー等が主導する受注のたたき台としてのプロトタイプが台頭している。
「安藤忠雄」のようにブランド化してしまえば、引く手数多で営業の必要などない。しかし建て主には敷居が高く見える。そこでハウスメーカーが著名建築家を担ぎ、「デザイナーズ住宅」と称して建築家テイストを消費していく。ダイワハウス×鈴木エドワード=EDDI's House のような。
建て主はなかなかゼロから発想できないし、どんなものがいくらくらいで建てられるのか分からない状態で依頼するのは不安だったりする。できれば、融資や工事のことなんかも1パッケージで楽をしたい。でも人と全く同じモノは嫌。それで、プロトタイプをたたき台に個別にカスタマイズしていくことになる。
2003年に書店でたまたま「Proto House 建築家がデザインする家/失敗しない建築家選び。/抽選で1名様に、建築家が無料で基本プランを進呈するFAX相談書付き!(¥980)」なんて本を見かけて、こういう営業もあるのかと思ったものだ。
現在では、建築家は登録事務手数料5万円、工務店は登録料20万円、成約時に登録している建築家とサポート工務店からそれぞれ15万円ずつ(工事費が3000万円未満の場合)というビジネスモデルになっている。やはり集金のしくみをつくる側が儲けて零細設計事務所はピンハネされる側である。
小規模設計事務所では広告宣伝を打つことはあまりないと思うが、営業費として費用対効果がどうかというのが登録するかどうかの判断材料になりそうだ。建て主にとっては、プロデュースサイトを利用せずに自力で建築士を見つければ、登録料や成功報酬の負担を軽減し、その分を設計に注力してもらえる。
Proto Houseは広告制作会社出身の桑原あきらという人が九州を拠点に立ち上げたしくみ。一方、設計者が主導しているのが、9坪ハウス。1952年に増沢洵設計により建てられた自邸「最小限住居」をベースに5原則を抽出し、複数の建築家によって現代にカスタマイズするしくみ。5原則とは、「1:平面は正方形(3間x3間)のプランとする、2:3坪の吹き抜けを設ける、3:外形は14.8尺の切妻屋根、4:丸柱を使う、5:メインファサードには開口部を設ける」である。運営しているのはコムデザインの岡崎泰之氏。現在12人(組)の建築家に固定されているもよう。
また、同社が手がける「東京ハウス」は敷地形状により、「うなぎ、旗、カド」のプロトタイプを提示している。「建築家の設計するオートクチュールでもなく、住宅メーカーの商品化住宅でもない、建築家によるプレタポルテ住宅」という位置づけ。
確かにこういうマーケットはあるのだろう。家づくりというのは楽しいものだが、たいへんなことでもある。忙しい仕事の合間に家づくりに全力投球できない人もいる。手軽に楽にちょっとおしゃれな空間に住みたい。コーポラティブハウスの分野でも草創期に都住創が展開した濃いぃコミュニティ空間を0から創出していくより、昨今では都市デザインシステムの半オーダー的なほどほどの付き合いが主流になっているのではないか。
「1000万円台で住宅を創ろう!」をキャッチフレーズに「建築家がてがけるシステム住宅」を唱うProject1000では、「サポートボックスタイプ」「サポートウォールタイプ」「中庭タイプ」という3つの基本タイプを用意し、特殊解は山下 保博氏の「アトリエ天工人」に誘導するという戦略のようだ。プロジェクトの方は格安の客引きが奏功し、フランチャイズ的に全国展開をしている。
仕事というのは、ある人に集中し、ない人には、まるっきりないものなのだ。
敷地ごとに広さ、形状、法規、周辺環境など千差万別な日本では、プロダクトのようにプロトタイプをそのまま建設するのは難しいが、受注のきっかけとして、設計業務のメニューに加えてみるのも一考の余地がありそうだ。零細事務所としては家づくりの面白さや家とともに成長して行く意味を訴え続ける方法を模索していくしかない。